Vol.7
新陳代謝するドレスウォッチ「カラトラバ」

 皆さんは時計を購入する際に、同じブランドをリピートすることはあるだろうか? 時計を手に入れ、使用しているうちにブランドに対する愛が深まっていくことはよくあること。多くのブランドではドレス系とスポーツ系の両方を作っているので、幅広いシーンで使っていきたいと考えるなら、同一ブランドのリピート買いは珍しい事ではない。
 かくいう私もラグジュアリースポーツの「ノーチラス Ref.5726A」を手に入れてから、ずっと“次のパテック フィリップ”について考えている。

 パテック フィリップを幅広いシーンで使いたいと考えると、ノーチラスの次はドレスウォッチを選ぶのがセオリーだろう。しかもパテック フィリップには、傑作「カラトラバ」があるではないか。
 カラトラバの始まりは1932年。ジュネーブの高級文字盤会社のオーナーであったスターン家が、パテック フィリップを買収した記念すべき年でもあり、新しいパテック フィリップの始まりを告げる時計でもある。そんな物語性も含めて、「カラトラバ」には特別な魅力があるのだ。
 1932年のファーストモデル「Ref.96」は、伝説の名機と呼ばれるキャリバー 96が搭載され、キレのあるドフィーヌ針と6時位置のスモールセコンド、シンプルだが機能的なダイヤルデザインは、ドイツのバウハウスの影響を受けているという。

カラトラバ・コレクションは、こういった伝統を守りつつ革新を進めており、モデルの新陳代謝も活発だ。返す返すも残念なのが、傑作として誉れ高かった「Ref.5196」が生産終了してしまったこと。2004年に誕生した「Ref.5196」は、その名が示すように初代の「Ref.96」へのオマージュを込めたモデルであり、パテック フィリップのドレスウォッチの系譜を継承する時計であった。しかし2022年をもってこのモデルは生産終了となってしまい、もはや手に入れることは不可能になってしまったのだ。
 マストハブなモデルがなくなったことで、カラトラバ購入計画を再考する必要が出てきた。センターセコンドタイプの「Ref.5227」もあるが、自動巻きモデルなのでケースはやや厚くなってしまう。ケースバックがハンタータイプになっている点はレトロで好きなのだが、カレンダーがついているので、少々実用感が出てしまう。ドレスウォッチは非日常を楽しむための時計として考えているので、カレンダーがついていないモデルこそが、自分には好ましい。

 ではなぜ手巻き式の薄型モデル「Ref.5196」は生産終了になってしまったのか? それは新たな進化を遂げたからでもある。2021年にデビューした「Ref.6119」は新型の手巻き式ムーブメント、キャリバー 30-255 PSを搭載する。大型のブリッジを使った設計はうっとりするほど美しく、香箱を並列に2つ並べて最小65時間のパワーリザーブを確保したのも嬉しいところ。ケース径はやや大き目な39㎜となったが、これは現代的な進化といえるだろう。それにケースの厚みを8.08㎜に抑えているので、全体のバランスは良好。6時位置のスモールセコンドは、ダイヤルのへりに近いところにセットされているので全体のバランスも良好である。
 そして何よりも、ベゼルのクルー・ド・パリ装飾が美しい。パリの石畳を意味するクルー・ド・パリ装飾は、光を乱反射させて煌めくので、非日常を楽しむドレスウォッチにふさわしい色気がある。このクルー・ド・パリ・ベゼルは、1934年の「Ref.96D」が起源。2000年の「Ref.5115」や2006年の「Ref.5119」といった歴代モデルでも愛されてきたデザインであり、これもカラトラバの正統派でもある。
 「カラトラバ」は伝統を守りつつ、新型ムーブメントでモダンに進化した。「Ref.6119」は、ドレスウォッチの最高峰として、間違いない選択肢となるだろう。これは欲しいリストの最上位に入れるべき一本である。

COLUMN

最高峰の時計ブランド「パテック フィリップ」の魅力とは何だろうか?
数々の仕事を通じてこのブランドに出会い、魅了され、遂にはユーザーとなったライター、ウォッチディレクターの篠田哲生氏が、自身の目と経験から感じた、"パテック フィリップのこと"について語る。
【今後の連載予定コンテンツ】
■モンブラン橋のパテックフィリップ本店  ■手にして理解したパテックフィリップの効能  ■やっぱりに気になる「カラトラバ」Ref.5196  ■旅を夢みて「ワールドタイム」  ■女性だったら「Twenty~4」  ■挑戦してみたいバゲットダイヤ×パテック  ■究極のコレクションピース「クロック」

 

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