リシュモングループのウォッチブランドは(カルティエ、A.ランゲ&ゾーネ、IWC、ジャガー・ルクルト、ラルフローレン、VC&A、パネライ他)どのシリーズ、どのアイテムも、隙のない高い完成度を持ち、透明度のあるグローバルマーケティングで消費者にとっても正統で、魅力的なプレゼンテーションを展開しています。
それに対してバーゼルワールドは、ロレックス、パテック フィリップ、ブライトリング、スウォッチグループなど、多数の各ブランドが独創性を競い、より個性的な商品ラインナップを発表しています。
そこには、全体を縛る系列やヒエラルキーは無く、取引きをする側としてもそれぞれのブランドが個別のプロダクト思想を持っているので、商談自体はジュネーブSIHHより難しい側面もあります。
しかしそこには同時に思いがけない商品や人との出会いがあります。
だからこそスイスまで行く価値があるのかも知れません。
今、ヨーロッパを中心とした世界的な不況の中で腕時計の総輸出を大幅に伸ばしているスイス時計産業は、総じて元気が良く、各国のバイヤーはその思いがけない出会い、双方向でしばりの少ない取引きを求めてバーゼルに集まり、その熱気はジュネーブSIHHを上回っている気がしました。
そして、新たなクリエーションがそこから生まれて来るような予感もしました。
全体的には、メジャーブランドは益々強固な製品ラインを構成していますが、近年の主要消費層である中国人向けのモデルが、ひと頃よりもデザインがベーシックでエレガントになっていたように思えました。
スイス時計産業は、それぞれの企業でプロダクトラインの構造変換が進み、全般的に多機能でハイスペックなものが増え、高品質化(ムーブメントの内容、外装)しているのもその理由のひとつかも知れません。
時計のサイズは40mm~46mmが今もって主流ながら、日本の消費者向けのサイズのものも増え、装着性に工夫を凝らしているものも多く好感が持てました。
印象的には、ミリタリーテイストのものが新作として目立ち、パイロットウォッチ系を中心に、魅力的な時計が次々とリリースされ、機能としてはGMTがかなり増えていました。
新作で話題を集めていたもののひとつに、ロレックスのスカイドゥエラーがありましたが、そのことにより年次カレンダーが、ハイスペック機能として完全に業界に定着したと言えるでしょう。
近年の時計デザインのテーマの根底は「懐古主義」ではありますが、そんな中で見逃せないのは、ムーブメントの内容及びケース構造が進化して傑出しているものが多数生まれているという所です。
そんなこんなで、色々な事を振り返りますと、改めてスイス時計業界の奥行きの深さ、層の厚さを痛感し、当分の間世界的にも熱狂的な時計ファンに好奇心と満足を提供し続ける事となるでしょう。
2012.3.28
カミネ
上根 亨