たった 「7本だけ」 製造された時計がある。
こだわりが凝縮されたその時計 「NH TYPE 1B」 を作ったのは ある一人の日本人男性だ。
数年前のバーゼルワールド会場内のパテック フィリップのブース前。偶然にも彼と久々の再会をした。近況を聞くと、一個人で時計を作っていると言う…
その彼とは 実に旧知の間柄で、30年以上も前からの付き合い。長年 高級時計の仕事ひと筋で生きてきた 言わば生粋の「時計人」と言える人で、経験に裏打ちされた 広く深い知識には教えられることも多い。
彼が 何年もかけて温め 自身の持つ英知を結集して完成させた渾身の一本こそが 「NH TYPE 1B」自身の名を冠にしたタイムピースである。
時計完成の知らせを受け、開発製造ストーリーの熱弁を聞いて即限定7個のうちのラスト一本を個人のものとしてオーダーしたそれが、先日届いた。
「NH TYPE 1B」 とはどんな時計か。
その世界観は、ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲやF.P.ジュルヌ(モントル・ジュルヌ・ジャポン)、ラルフローレンウォッチ&ジュエリーでのキャリアで長年腕時計の歴史とクリエイティビティなどの造詣に培われたものであり、その開発製造コンセプトは 「1930~50年代のヴィンテージ黄金期」に基づく。それを復刻ではなく 「現代の高度で最新のテクノロジーを駆使して生み出す」 ことを目指したという。
ケースサイズは37㎜。現代にしては少し小ぶりだ。
それに対して、厚みは薄すぎず厚すぎず程よいバランスで、逆ぞりになったベゼルが時計本体のフェイスを引き締め、風防のサファイアガラスの緩やかなカービングがよりヴィンテージ感を高めている。(写真隣は同サイズのノーチラスRef.3800)
そして特筆すべきは 細部に行き渡るディテール。
時計本体(ケース)の造作と仕上げは、世界最高峰レベルであり日本製の「超高精度微細加工機」で磨き上げられた曲面と平面で構成され、シャープで立体的な完成度になっている。
さらに、最も堅牢で耐食性に極めて優れた品質を持つステンレス「SUS904L」を採用。(ハイテク産業、航空宇宙、科学の分野などに使われているステンレス)
このステンレスは硬質であるため、加工・仕上げが難しい反面、磨き上げるとその光沢は貴金属以上の輝きになる。高価な為 採用しているブランドはめったにない。
あえてこの材料に拘るところは、長年アフターサービスも含め 様々な時計を扱ってきた彼らしいところなのかも知れない。
エッジをきつくしたピンバックルは丹念に作りこまれ、内側の革ベルトのおさまり具合は極めて快適なものとなっている。
この部分まで904Lで製造する困難さは想像に難くない。
装着される革ベルトは手縫いで縫い込まれたベジタブル・タンニングカーフ。これもこだわりの一つだ。昔ながらの手間ひまかかる製法で完成するレザーは、植物の樹皮や葉から抽出したタンニン=渋でなめしてある。
裏面まで縫い穴の貫通はなく、防汗の意味もあり 裏面にはラバーが貼られている。
この素材選びとステンレスの掛け合わせにも、ヴィンテージの世界に思いを馳せた拘りが感じられる。
そして、この時計を創る上で全力を注いだのは、多分 この実に手の込んだ文字盤の製造だろう。
洋銀をベースにした文字盤にブレゲ・アラビック・インデックス、段差をつけたサークルのドットの分刻み、そして命とも言える冠ロゴ。
手彫りのインデックスにはカシュー(いわゆる合成漆)が流し込まれている。
手間をかけたこのあたりの作業ゆえ、手造り感がひときわ香り立つ。ブルースチール(青焼き)針は、長短針共に適正な長さで、時計好事家の方々が最も注目するその厚みに加え、先端を曲げて絶妙な味を出している。
ベース・ムーブメントはその汎用性から決して高級な印象は持ちえないかもしれないが、時分針とスモールセコンドの軸間距離が長く、極めて信頼性の高い「ETA.ヴァルジュー Cal.7750」。
これもまた様々な拘りで、元々の原型を留めないほどに再設計され、手が入れられている。少々大げさな話だが、1980年代のパテック フィリップの「3970」 の事を ふと思い出した (レマニアのムーブメントの良い部分を残しながら、パテック フィリップの思想で大幅に改造し、世に送り出された1980年代の名作クロノグラフ)。
これは神をも恐れぬ行為だが、彼はRef.3970(Ref.1518、Ref.2499と共に)のストーリーを初めて聞いて衝撃を受け、その後 パテック フィリップが1950年代に製造したRef.2458やRef.2556に感動し、いつかはこれを越える時計を作りたいという夢を持ったのもひとつだと言う。
ちなみに、この上の写真(NH Cal.3019 SS)は工房で撮影されたNH TYPE 1Bに搭載される手巻きムーブメントCal.3019 SS。
手巻きの感触はあえてヴィンテージ感を出すため大きめのリューズで巻き上げる。感触に少々不満を覚えたが、こうしたところもパーソナルな醍醐味でもある。
収納するボックスも、彼独特の感性が生かされたあまりメジャーブランドではお目にかからないスタイルだ。
ベジタブル・タンニングレザーのムラのあるパティーヌ仕上げで、眼鏡ケースのようなフォルムは手作業での成形。
このオリジナル感が作品の一貫性を高める。ここへ収まって、いよいよ「出来上がり」という訳だ…
大げさなほどに記された品質証明、品書きなど一連のアーカイブに彼の時計人生の一端を傾けた熱い想いがひしひしと伝わってきた。
2012年から実に7年の歳月をかけ 自らの知見を注ぎこんで 飛田直哉氏が作り上げたこのプロダクトに、心から敬意を表して。
落ち着いた時期に彼のプレゼンでこの時計や次の新作を語ってもらい、新機種(NH TYPE 1CとNH TYPE 2A)をオーダーできる機会を催したいと考えています。
評論家によるこの時計の更に詳しい情報はこちらをご覧ください➡NH TYPE 1B
詳しくは、カミネ旧居留地店へお問合せください➡カミネ旧居留地店
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