「007」、数あるスパイ映画の中で最も人気といっても過言ではないでしょう。
英国の秘密情報部(MI6)のエージェント、
「ジェームズ・ボンド」、コードナンバー「007」
頭脳明晰、優れた戦闘技術と、鍛えられた肉体を持ち、
スーツの着こなしも完璧。
スパイといえばジェームズ・ボンドをイメージされる方も多いと思います。
彼のお気に入りのカクテルはウォッカ・マティーニ、
「ステアではなく、シェイクで」のセリフは有名ですね。
私もジェームズ・ボンドに憧れ、バーでオーダーしたことがあります。(笑)
彼は様々な車に乗ってきましたが、多くはアストンマーティン製。
防弾ガラスや機関銃、小型ミサイルなどを装備し改造されたボンドカーは
常に彼の相棒でした。
そんなボンドカーと共に彼の相棒となったのは“ダイバーズウォッチ”です。
タフでスタイリッシュ、ファッショナブルで紳士なスパイである
ジェームズ・ボンドが選んだ時計は、
同じくタフなダイバーズウォッチだったのです。
タキシードにダイバーズウォッチを合わせるスタイルは当時としては、
ありえない組み合わせでした。
ドレスアップしたときには、薄型で貴金属製、
革ベルトの時計が当たり前だった時代に、このスタイルは
スパイであるジェームズ・ボンドだから許された組み合わせかもしれませんね。
彼の影響もあり、現在はスーツやタキシードにダイバーズウォッチを合わせることも当たり前になっていますね。
では、ボンドも愛用したダイバーズウォッチを更に深堀していきましょう!
この記事は以下の内容で構成されています。
①ダイバーズウォッチとは
②気圧防水とm防水
③ダイバーズウォッチの機能
④ダイバーズウォッチの歴史
⑤代表的なダイバーズウォッチの紹介
⑥まとめ
①ダイバーズウォッチとは
ダイバーズウォッチとはその名の通り、
ダイビングに適した機能を持った時計です。
高い防水性だけでなく、逆回転防止ベゼルを備えることも条件の一つです。
また、国際標準化機構(ISO)や日本工業規格(JIS)には
ダイバーズウォッチの規格が定められています。
下記がISO、JISにおいて定められたダイバーズウォッチの定義と
要求事項のまとめです。
〇定義
・少なくとも水深100mの潜水に耐え、その1、25倍の水圧に耐える耐水性
(100mの場合は水深125m相当)があること。
・潜水時間を管理する機能を備えていること。
〇要求事項
1,タイムプリセレクティング装置
誤作動、逆回転防止機能付きの回転ベゼルなどを備えていること。
2,視認性
暗所で25㎝の距離から時刻や時計の作動状態が目視できること。
3,耐磁性
4,800A/mの直流磁界中で作動し、日差30秒を維持できること。
4,耐衝撃性
3㎏のハンマーで打撃を加えても、日差60秒を維持できること。
5,耐塩性
3%の食塩水の中に24時間放置しても異常がなく、
回転ベゼルも正常に作動すること。
6,水中操作
水深30㎝で回転ベゼルやスイッチ等が正常に動作すること。
7,耐浸漬性
水深30㎝で50時間の浸漬試験後に風防内に曇りがないこと。
8,耐外力性
・バンドを締めた状態で200N(20㎏相当)の力で引っ張り
応力にも耐えられること。
・りゅうずに5N(500g相当)の外力を加えた状態で
1、25倍の水圧中に10分間保持しても機能に異常がないこと。
9,耐熱衝撃性
40℃の水中に10分間、5℃の水中に10分間の温度変化にも耐えられ、
かつ時計内部への浸水がないこと。
10,水中加圧
表示圧の1,25倍の圧力を水中で2時間加圧しても内部に浸水せず、
加圧中・加圧後にも時計が動作していること。
11,耐ヘリウムガス性
飽和潜水時計については、ヘリウムガス混合ガス加圧試験を実施し、
止まりなど機能異常がないこと。
ダイバーズウォッチには防水性能だけでなく、さまざまな耐性が求められ、
試験を行う必要があります。
しかし、これらすべてをクリアすることは難しいため、
100m以上の防水性があり、逆回転防止ベゼルを備えた時計をダイバーズウォッチとしているブランドが多いです。
②気圧防水とm防水
時計を見ていると、〇〇気圧防水の時計と、〇〇m防水の時計があるのを目にすると思います。
「10気圧防水=100m防水」と思われている方も多いですが、
実は2つは違う意味なんです。
JISでは日常生活用の防水は「bar(気圧)」で表示、潜水用の防水は「m(メートル)」で表示することになっています。
つまり日常用と潜水用で表記を分けているんですね。
ただ、10気圧防水の場合、
水深100mで静止した状態の水圧まで耐えられますが、
あくまで静止した状態。
動かしてしまうとそれ以上に水圧がかかり耐えられなくなってしまいます。
これに対して、100m防水は水深100mでの水圧に耐えられるよう設計されています。
③ダイバーズウォッチの機能
ここではダイバーズウォッチの特徴的な機能をご紹介していきます。
〇逆回転防止ベゼル
潜水時間の計測に使います。
写真の時計では文字盤の外周、黒色のリングが逆回転防止ベゼルです。
上の写真のように10時15分から潜水を開始する場合、
ベゼルの▽の印を分針15分の位置に合わせます。
10分経過後。
ベゼルに記された数字と刻みで、時間経過が分かるようになっています。
ダイバーにとってボンベの酸素残量が生命線。
ベゼルが逆に回ってしまうと、酸素量がまだ残っていると誤認してしまい、
命を落としてしまう危険性があります。
そのためベゼルが逆回転しないようにできているのです。
私はこの機能をお昼休憩の1時間を測るために使っています(笑)
〇ヘリウムエスケープバルブ
丸いボタンのような部分がヘリウムエスケープバルブです。
名前の通り、時計の中に入り込んだヘリウムを逃がすために必要な機能で、
プロダイバーが行う「飽和潜水」で使われます。
飽和潜水とは、水深100mを超える深海に潜る際に行われる潜水方式で、
体を深海の圧力に耐えられるように慣らしてから潜水を行います。
人間の体の中にはさまざまなガスが溶け込んでいるため、
潜水をすると高い水圧が体にかかります。
この状態になると地上にいる時よりも多くのガスが体に溶け込むのです。
逆に浮上するときには水圧が小さくなっていくため体に溶け込んだガスは血管などに排出されて体の外に出ていきます。
しかし、深海から急激に浮上してしまうと
血管中に溶けきれなくなったガスが気泡となって現れ、
血栓となって血管を破いてしまうことがあります。
それを防ぐために、あらかじめ地上で加圧して
体に最大までガスを溶け込ませておけば(飽和状態)、
安全性が高まります。
では、なぜヘリウムガスを使うのか。
それは「窒素酔い」を防ぐためです。
深く潜るにつれ、呼吸ガスの圧力は大きくなります。
それに伴い、空気中の8割を占める窒素の圧力も大きくなるのですが、
窒素は深度40mを超えると麻酔作用を引き起こします。
これが「窒素酔い」です。
窒素酔いを防ぐために、窒素の代わりにヘリウムを混ぜたガスが使われます。
ただ、ヘリウムは分子がとても小さいため
作業中や減圧チャンバーに入っているときに
隙間から時計に入ってきてしまうのです。
高圧状態なため、ヘリウムも高圧状態で入り込んできます。
それが浮上していくにつれ、
周りの気圧が下がっていくと時計の気圧が外よりも大きくなっていきます。
すると、この状態に時計が耐えられず破裂してしまうのです。
これを防ぐためにヘリウムを外に逃がす仕組みとして、
ヘリウムエスケープバルブが作られました。
深海で作業をするプロダイバーのために作られたということですね。
〇エクステンションバックル
ダイバーズウォッチは簡単に30mm前後長さを調節することができるバックルを備える時計が多いです。
これは日常での着用+分厚いダイビングスーツの上から着用するために備えられた機能です。
④ダイバーズウォッチの歴史
ここからはダイバーズウォッチの歴史をご案内してまいりますが、
ダイバーズウォッチの前にまずは腕時計の防水性についてです。
防水性を高めることは、懐中時計から腕時計への発展と同時に
各メーカーが課題として取り上げました。
洋服のポケットの中にしまう懐中時計に対して、腕時計は汗や、湿気、空気中のほこりなどが時計の中に入り込んでしまうリスクがあるためです。
そんな中、他メーカーより先んじて防水ケースを開発したのは「ロレックス」。
1926年に「オイスター」と名付けられたそのケースは、ベゼルと裏蓋、リューズがミドルケースにねじ込まれた、特許取得のシステム。
世界初の腕時計用防水ケースとして誕生しました。
各部にねじ切りを施し、それぞれを締め付けてケースの隙間をなくすことで高い防水性を実現しています。特に画期的だったものがリューズのねじ込み。
1927年にドーバー海峡横断泳に成功した、メルセデス・グライツが横断時に身に着けていたのがロレックス「オイスター」だったことは有名ですね。
現在のように“ダイバーズウォッチ”と総称される腕時計が誕生したのは
1950年代にはいってからの事でした。
1953年、奇しくも2つのブランドから、“現在のダイバーズウォッチの原型になる腕時計が発表されました。
ロレックス「サブマリーナ―」と、ブランパン「フィフティファゾムス」です。
この2つの時計は、先にとりあげた防水性を高めたものではなく、
ダイバーが潜水するときに着けられるよう設計されたものです。
ロレックスの「サブマリーナー」、知らない人はいないと言っても過言ではないと思います。
オイスターケースの防水性能よりはるかに高い、100mの防水性と、
回転ベゼルを備え、視認性の高いブラックダイヤルに夜光塗料を塗布したインデックスが採用されています。
まさに現在のダイバーズウォッチの原型となるデザインですね。
その1年後の54年には200mにまで防水性を向上させていることも驚きです。
そして、冒頭で取り上げた「ジェームズ・ボンド」が
サブマリーナーを着用していました。
当時はまだプロフェッショナルの時計という認識だったのが、
「かっこいい時計」というイメージで定着したのは
彼の着用が大いに影響しているでしょう。
サブマリーナーの誕生と時を同じくして生まれたのが、
ブランパンの「フィフティファゾムス」です。
「フィフティファゾムス」はブランパンがフランス海軍潜水戦闘部隊のために開発した“ダイバーズウォッチ”で、ファゾムスとは水深の単位を意味しており、“50ファゾムス=約91,5m“の防水性を持っているという事を示しています。
フィフティファゾムスも100m近い防水性を持っていたのです。
サブマリーナーと同じく回転ベゼルに、
ブラックダイヤルと夜光付インデックスを採用。
フィフティファゾムスもまた、現在のダイバーズウォッチの原型を作った名作時計です。
このフィフティファゾムスは、発表から40年以上経った後に制定されたISO規格をほぼ満たしていたことからも、先進性の高いダイバーズウォッチを製作していたことがわかります。
“ダイバーズウォッチ”を語る上で、パネライも外せません。
パネライが1938年、イタリア海軍の特殊潜水工作部隊からの依頼を受け製作した腕時計。これはラジウムをベースとして新たに開発された夜光塗料「ラジオミール」を採用しています。
その塗料の名から取られたのが
パネライのダイバーズウォッチ「ラジオミール」です。
潜水服の上からでも着用しやすいようにベルトを長くし、
視認性を保つために47mmの大型ケースを備えていました。
ラジオミールは暗闇でも極めて明るく発光することから、
銃の照準器や魚雷発射用の計算機などにも用いられ、特許も取得されています。
パネライのダイバーズウォッチも、
軍隊での使用にも耐えられるタフな時計として開発されたということですね。
⑤代表的なダイバーズウォッチの紹介
・ブライトリング
スーパーオーシャン
パイロットウォッチのイメージが強いブライトリングですが、
ダイバーズウォッチもラインナップしております。
1960年代に流行したスキューバダイビング、そのブームから水中でも信頼性の高いダイバーズウォッチをダイバーたちは欲していました。
そんな60年代発表されたのが「スーパーオーシャン スローモーション」
そのデザインを元に2022年7月に発表されたのが
上の写真のNEW「スーパーオーシャン」
300mの防水に加え、回転ベゼルにはセラミックが採用されました。
バックルにはアジャスターを備え、サイズの微調整も可能になっています。
・ベル&ロス
BR03-92 ダイバー
スクエアケースがユニークなベルロスのダイバーズウォッチですが、
防水性はなんと300mを備えています。
そもそも防水性を高めるためには、円形の裏蓋をミドルケースにねじ込む方法が主流ですがケースが四角形のこの時計にはねじ込み式は使えません。
それがこれまでスクエアケースのダイバーズが作られてこなかった理由です。
それでは、どうやってベル&ロスがスクエアケースに300m防水を持たせることができたかというと、それは加工精度の高さです。
切削技術の進歩は、ケースの見た目だけではなく、
気密性を高めることも可能にしました。
裏蓋とミドルケースの嚙み合わせがより精密になったことで、
はめ込み式にも関わらず300mの高い防水性を備えることができたわけですね。
ベル&ロスのダイバーズウォッチへのこだわりは非常に強く、
1997年に発表したブランド初のダイバーズウォッチ「ハイドロマックス」は
防水深度1万1100mを達成し、この記録はギネス世界記録を樹立しました。
ベル&ロスのダイバーズウォッチへのこだわりを感じていただけるのではないでしょうか。
・ジャガールクルト
ポラリス
この時計は1968年に発表された
アラーム機能付きダイバーズウォッチ「メモボックス・ポラリス」の
復刻として発売されました。
多くのダイバーズウォッチとの違いは、
回転式ベゼルが風防の内側に収まっている点です。
2つ付いたリューズは時刻合わせ用のものと、
インナーベゼルをセットする用のものが備わっています。
インナーベゼルは、傷は腐食に強く、長期の使用でベゼルの目盛りが見えなくなることを防いだり、外部からの衝撃で回転ベゼルが誤動作することからも防ぐことができます。
⑥まとめ
いかがでしたでしょうか。
同じダイバーズウォッチでも、さまざまな形のものがありますね。
ダイバーズウォッチは非常に多くのブランドがコレクションしており、
水中という過酷な環境の中でも正確に動くタフさと、
実用性を考えられ設計されています。
ジェームズ・ボンドが諜報活動の相棒にダイバーズウォッチを選ぶわけがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ダイバーズウォッチはあなたにタフなイメージをプラスしてくれる時計だと思います。現在はさまざまなデザインのものが存在しているので、あなたにピッタリの1本を見つかると思いますよ。
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