かつては「S.I.H.H.」という名称だったジュネーブでの新作時計の展示会が、「Watches&Wonders」として再始動したのが2020年のこと。パテック フィリップも長く参加していたBASELWORLDを離れて、こちらに参加することが決まっていたが、COVID-19の影響で2020年と2021年の開催はオンライン主体となり、2022年はアジアからの来場者がほとんどいない状態。そして2023年になり「Watches&Wonders」は、ようやく通常開催となった。
かくいう私も、4年ぶりの新作時計の展示会の取材をするために、3月末にジュネーブへと飛んだ。初日となる3月27日にまず向かったのは、パテック フィリップのブースだった。BASELWORLDと同じガラス張りの白く巨大ブースがなんだか懐かしい。
パテック フィリップの今年の新作は17モデル。そのうち5つがチャイミングウォッチだったが、中でも「グランドコンプリケーション 5316/50P」が素晴らしかった。ミニット・リピーター、トゥールビヨン、レトログラード日付表示針付永久カレンダーを統合したトリプル・グランドコンプリケーションだが、サファイアクリスタル製のダイヤルが外側に向かって濃くなるグラデーションカラーになっており、メカニズムをデザインの一部に美しく取り入れている。
旅が自由にできる時代が戻ってきたこともあって、旅時計に対する興味も高まっている。「カラトラバ・トラベルタイム 5224」は、得意とするトラベルタイム機構の進化版。特徴は時針が24時間式になっていること。ローカルタイム時針はリューズで操作するが、中空のホームタイム時針はそのまま。同社のトラベルタイムは、昼夜表示を備えるのがセオリーだが、このモデルはダイヤルの上半分が昼時間で下半分が夜時間となる。これは太陽の動きと同じであるため、針位置を見るだけで昼夜を間違う心配はない。シンプルなラウンドケースに機能性を詰め込み、美しくまとめる。美と技の両方を極めたパテック フィリップらしい新作となっている。
そして今年、もっとも話題を集めそうなのが「カラトラバ6007G」だ。これはプラン・レ・ワットの新工場の完成を祝うために、2020年に限定1000本のみ製作したステンレススティールモデル「カラトラバ6007A」にて採用した≪カーボン≫ファイバー風のダイヤルデザインを取り入れたもの。エボニーブラックのダイヤルやストラップには≪カーボン≫ファイバー風のエンボスパターンを取り入れることで、前作よりもスポーティさが増している。しかも秒針、ミニッツトラック、ストラップのステッチに、イエロー、レッド、スカイブルーのカラーリングを加えている。
ちなみに主軸モデルとなる“-001”番はイエローモデル。つまりこの色がパテック フィリップの推しモデルということだ。華やかなモデルを推して、若いユーザーにもパテック フィリップの魅力を広げていきたいと考えているのだろう。
取材を終えた後、会場を後にして町中に出た。レマン湖から流れるローヌ川にかかるモンブラン橋には「Watches&Wonders」の旗がはためき、ジュネーブのシンボルである大噴水も見える。この橋のたもとにはパテック フィリップの本店がある。この風景を見るとジュネーブに帰ってきたのだと実感する。
今年は6月10日から、東京・新宿で大規模な展覧会「パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション東京2023」が開催された。パテック フィリップのこれからが、とても楽しみだ。