皆さんは腕時計を選ぶとき、何を基準に選びますか?
ブランドや歴史、デザイン性、機能など選ぶポイントはさまざまあるかと思います。
前回・前々回のブログで「ムーブメント」「文字盤」と紹介してまいりましたが、
今回はさらに深堀して、腕時計のデザインと機能、
どちらにも大きく関わっている「ベゼル」についてお話していこうと思います。
●ベゼルとは
ベゼルとは「枠」や「額縁」を意味しており、腕時計においては文字盤やムーブメントを守る「風防ガラス」の周囲に取り付けられるリング型のパーツです。
主な役割は、風防ガラスを固定し、衝撃や傷から守ることですが、
腕時計の長い歴史の中で、ベゼルは装飾や機能を表現するパーツとしても認知されるようになりました。
まずはベーシックなデザインのベゼルをご紹介いたします。
●ベゼルのデザイン
・スムースベゼル
表面が滑らかで、装飾のない最もポピュラーなタイプのベゼルです。
鏡面仕上げ(ポリッシュ)をされることが多く、ベゼル部分の幅によって時計の印象が大きく変わります。
上の時計のようにベゼルの幅が広いとスポーティーに、
下の時計のようにベゼルが幅が狭いとドレッシーなイメージになります。
・コインエッジベゼル
コインの縁のような装飾が施されたベゼルです。
フルーテッドベゼルと似たようなデザインですが、コインエッジベゼルの方がより細かいラインが彫られ、丸みを帯びたようなデザインが特徴。
これには、光の反射を防ぎ視認性を高める効果があります。
18世紀末のまだ金貨の側面にエッジがない時代、金貨の側面を削り取り、
金の切り屑を回収し不正に売る行為が多発しました。
金貨の側面にギザギザとした装飾をつけることで対策をしていたことを発祥に、この技術が時計にも取り入れられました。
ケースサイドの装飾として用いられることも多いです。
・クル・ド・パリ
「パリの爪」という意味をもち、
細かいピラミッド状の模様が連続したように彫られた装飾。
古くから用いられている伝統的な装飾です。
・宝飾ベゼル
ベゼルにダイヤモンドやサファイヤなどの宝石をセットしたベゼル。
さまざまなデザインがあります。
いくつかデザインをご紹介いたします。
等間隔にダイヤをセットしたものや、
2列にダイヤをセットしたもの、
ベゼル全体にダイヤを施したデザインもあります。
複雑なねじれ面に沿って、螺旋状に宝石をセッティング。
エメラルドやサファイヤの埋め込みで幾何学模様を描いています。
世界で最初の腕時計は女性用でした。
1806年、フランス皇帝ナポレオンがパリの時計宝飾師ニトーに腕時計を作らせます。
皇妃であるジョセフィーヌのために作られたこの時計は、小さな時計にブレスレットを装着した宝飾時計でした。
腕時計の誕生から現在まで、200年以上かけて磨かれてきた宝飾の技術。
宝飾時計は実用品とはまた違う魅力がありますね。
・ビス止めベゼル
防水性を高めるためケースにビス留めしたベゼル。
薄型時計の防水性を高めるために用いられていましたが、
現在はデザインにスポーティー感を加える意味合いも強くなっています。
上の画像の時計は人気ブランド「ウブロ」のものです。
ウブロとは舷窓(船の船体にある小さな窓)を意味しており、腕時計のデザインにも舷窓が取り入れられています。 丸型の窓と、打ち込まれたビスのイメージが、時計のデザインに上手く落とし込まれています。
●ベゼル素材について
ここで少し、ベゼルの素材について触れておきましょう。
ベゼルに使われる素材として、近年増えてきているのがセラミックです。
ステンレスの10倍以上の耐傷性をもつセラミックは、時計の外装の中でも外側に張り出し、 傷がつきやすいベゼルに適しており、特にスポーティーで日常使用に向いた時計に採用されています。
●ベゼルの機能
それでは最後に、機能を表すベゼルの実例を、いくつかご紹介します。
・タキメーターベゼル
タキメーターとは、時速や平均速度を計測するための機能で、
主にクロノグラフ(ストップウォッチ機能)を搭載した腕時計に採用されています。
モータースポーツや飛行実験等で使われてきました。
測り方はいたってシンプル。
走行開始と同時にストップウォッチをスタートし、
1㎞進んだところでストップ。
クロノグラフ針が指したタキメーター上の数字が時速になります。
・カウントアップベゼル
主にダイバーズウォッチに採用され、潜水時間を正確にカウントするために用いられます。
反時計回りにしか回転しない仕様になっているため「回転防止ベゼル」とも呼ばれています。
ダイバーにとってはボンベの酸素残量が生命線。
ベゼルが回転してしまうと酸素がまだ残っていると誤認してしまい、命を落としてしまう危険すらあります。
それを防ぐためにベゼルが簡単に回転しないようにできているわけです。
ダイバーズウォッチは国際標準規格(ISO)や日本工業規格(JIS)において、0~60分までの目盛りを5分間隔で描かれた回転防止ベゼルを備えていることを条件にしており、回転ベゼルの目盛りと分針を使用することで、時間経過を簡単に読みとることが可能です。
分針の位置にベゼルの▽の印が合うようにベゼルを回転させ、計測スタート。時間が経過し、分針の指す回転ベゼルの目盛りが経過時間を表します。
上の写真のように、15分から潜水をスタートする場合、
ベゼルの▽の印を分針15分の位置に合わせます。
10分経過後。
ベゼル上10の目盛りの位置に分針が来るため、10分の経過がわかります。
また、ダイバーズウォッチにはベゼルが風防ガラスの中に入ったインナーベゼルを備えた時計もあります。
インナーベゼルとはプッシュボタンやリューズを使ってベゼルを回転させる仕組みで、傷や腐食に強く、衝撃を受けてもベゼルが回ってしまう誤作動を防ぐメリットがあります。
ベゼルの操作をリューズで行うため、厚いグローブなどを着けていると操作しづらい場合もあるため、操作にコツが必要です。
・GMTベゼル
GMTとはGreenwich Meen Time (グリニッジ・ミーン・タイム)の略で、「世界標準時」を指します。
イギリスのグリニッジ天文台を通る子午線(南北線)を基準とした国際的な標準時刻で、「グリニッジ標準時」や「グリニッジ平均時」とも呼ばれます。
時計のGMT機能とは「ローカルタイム(現地時間)」と「ホームタイム(GMT)」
の2つの時間帯を同時に表示できる機能です。
どのように2つの時間帯を表示するかといいますと、
上の画像の時計を見ていただくと通常の時計より針が1本多いのがお分かりいただけると思います。
このように、GMT機能を備える時計には時針(短針)が2本備わっているのです。
時針①
通常の時針(短針)で、12時間で1周する。通常は現在いる国の時刻に合わせる。
時針②
もう1本の時針(短針)。通称「GMT針」は24時間で1周します。
この2本の時針で、ローカルタイムとホームタイムの時間を同時に表示することができます。
ニューヨーク在住の方が日本に渡航する場合、日本時間に時針(ローカルタイム)を合わせると、在住のニューヨークの時間はGMT針(ホームタイム)が連動して差し示し、住んでいる国と旅している国の時間が一目で分かります。
また、回転ベゼルに24時間表示が刻まれた時計は、更にもう1つ、3つ目の時間帯を知ることができます。
回転ベゼルを知りたい国との時差分回転させることで、GMT針が指す回転ベゼル上の数字が3つ目の国の時間帯を示します。
グローバル時代の今、海外の方とコミュニケーションを取るときにはとても便利な機能ですね。
遠い異国を旅しながら、時計を見ることで自分の国の「時」を思う。
GMTは、機能の便利さと共に、ロマンティックな一面も兼ね備えている時計です。
いかがでしたか。
一口にベゼルといっても、さまざまなデザインと機能が存在していることがお分かりいただけたと思います。
ベゼルはデザイン面では時計の印象を大きく左右する装飾であり、機能面では風防ガラスを固定するという当初の役割だけでなく、ダイバーの活動時間を測るためや、異なる国の時刻を一目で判別できるなど、時計の多機能化において重要なパーツになっています。
ベゼルのもつ意味や役割を知ることで、より一層時計選びを楽しんでいただけるのではないでしょうか。
カミネ各店ではたくさんのブランド、時計を取り揃えております。
ベゼルに注目して時計をご覧いただくと、いつもとは違った発見があるかもしれませんよ。