パテック フィリップの年次カレンダーモデルの中で、最終的に選んだのは「ノーチラス Ref.5726A」だった。これが人生初のパテック フィリップであるので、なるべく日常的に使いたい。ならば薄型デザインであっても、12気圧防水となるタフな防水ケースや、頑強なステンレススティールケースをもつ「ノーチラス」は、かなり魅力的だ。今でこそ「ノーチラス」を含めたラグジュアリースポーツウオッチは熱狂的に支持されているが、10年くらい前は、ダイバーズやパイロットなど機能性が強いツールウォッチの人気が高く、さらには好調な中国市場の好みを反映して、小ぶりなドレスウォッチ回帰の兆しもあった。そのためラグスポモデルはそれほど人気銘柄ではなく、「ノーチラス Ref.5726A」も時計店にお願いしてから数週間で用意してもらえた。現在の熱狂的な状況からは考えられないが、今思い返すと、欲しい時計がすぐに手に入るいい時代だったのだ。
初めて購入したパテック フィリップその感想は……、保管ボックスが大きくて重たい! ということ。下らないことかもしれないが、時計愛好家にとってボックスの保管場所はちょっとした悩みごと。しかし、この立派な箱を見るだけでも、ついに世界最高峰の時計を買ったのだという実感がわいてくる。
さてさて、改めて自分のものとなった時計を眺めてみるが、ブラック・グラデーションダイヤルのしっとりとした佇まいが美しい。その後はホワイトやブルーのダイヤルも追加されたが、年次カレンダーの知的な雰囲気には、このブラック・グラデーションダイヤルがよく似合うと今でも思う。
つけると腕馴染みもいい。ケース径は40.5㎜、ケース厚は11.3㎜なので、決してコンパクトではないが、時計の重心が低いからか手首にすっと収まる感じがある。さらにラグが可動式になっているので、ストラップのフィット感が高まっている点も高く評価したい。年次カレンダーの修正は時計サイドのプッシャーで行う仕組みで、それぞれの表示を個別に動かせるので、3月1日のみ行う日付修正も容易だ。
しかし購入直後は、何度かミスをした。そもそもデイリーユースの時計として購入したが、そうはいっても他にも一軍の時計たちがいるので毎日使う想定ではない。このモデルに搭載されるCal.324 S QA LU 24H/303のパワーリザーブは最大で45時間なので、油断すると時計が止まってカレンダーがズレてしまうのだ。
しかしここで慌ててはいけない。針位置が20時から4時にあるときは、カレンダー早送りは非推奨時間であり、繊細な年次カレンダー機構を壊してしまう恐れがある。しかしセンターの時分針はAM/PMが分からない。だから6時位置に24時間表示があるのだ。
リューズで針を送って問題ない時間にしてからプッシャーで操作してカレンダーを修正するが、この作業をその都度行うのはかなり面倒。そこで時計をグルグル回転させてゼンマイを巻き上げる「ウォッチワインダー」も購入した。これなら時計は常に動き続け、年次カレンダーをいつでも正しい状態に維持することができるし、あわただしい外出前にナーバスな作業を行う必要はなくなった。
「ノーチラス Ref.5726A」は、ステンレススティールの頑強さと高い防水性のおかげで、予定通り、時計ラインナップの主役級の働きをしてくれる。冬はリッチなアリゲーターストラップを使用するが、夏は耐水性の高いラバーストラップに変更している。現在ならメタルブレスレット仕様もあるが、ストラップの方がドレッシーな雰囲気なのでお気に入り。ケースも比較的薄い上に、ケースのシェイプが滑らかなのでシャツの袖口とも干渉しにくく、スーツやジャケットスタイルに合わせて使うこともできる。もちろんTシャツやポロシャツなどのカジュアルスタイルに合わせると、それだけでリッチ感が加わり格上げ効果もある。
パテック フィリップの歴史と技術を備え、しかも様々なTPOで楽しめる「ノーチラス Ref.5726A」は、30代から40代にかけての充実した時間を刻む時計となった。カレンダー合わせが大ごとになりそうなので、海外に持って行ったことはないが、それ以外は大満足の一本である。